天竜スギという木材についての考察

「日本三大人工美林」のひとつとして名高い静岡の天竜スギ。

天竜スギが育つ浜松市天竜区は、南アルプスの西南部に位置し、面積の約90%を森林が占める自然豊かな地域です。

今回は、優良な国産材として知られる天竜スギについて、他の地域で育つスギと比較してどのような優れた特徴があるのか勉強していきたいと思います。

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人工林としての天竜スギの歴史は古く、現在から500年以上も前。

室町時代中期の文明年間(1469年~1487年)に秋葉神社本宮の境内に植林されたのがはじまりだとされています。

その後、元禄9年(1696年)に静岡県北部にある山住神社の宮司である23代大膳・亮茂辰公が、紀州熊野から杉の苗木3万本を持ち帰って植林を行い、本格的な天竜林業が開始したようです。

天竜スギを語る上で重要なのは、明治時代の実業家、金原明善の存在です。

天竜美林の側を流れる天竜川は、かつて「暴れ天竜」として恐れられていました。

急峻な地形ゆえ、幾度も洪水などの水。害を引き起こしていたためです。

明善は、長年水害に悩まされてきた地域の人々を守るため、治水事業に立ち上がります。

私財を投げ売り、堤防の補強工事や治水についての教育へ力を注ぐだけでなく、大雨が降ると大量の土砂が流れだしてしまっていた天竜川の様子を見て、明治18年(1885年)より森への植林を開始しました。

このときに植えられた多くの木が後の天竜スギとなり、天竜林業の礎となったのです。

明治政府が、保安林制度と営林監督制度を導入することを目的として、1897年(明治30年)に「森林法」を制定

これは全国的に林業強化政策が進められるより10年以上も早い取り組みでした。

スギはヒノキと並び、日本国内で最も頻繁に用いられる建築材です。

ラテン語で「日本の隠れた財産」を意味する「Cryptomeria Japonica」が学名となるほど、優れた特性を持つスギですが、その一つに「まっすぐ長く成長する」という点が挙げられます。

日本語の「スギ」の語源も、まっすぐに育つ木=「直ぐ木」であると言われており、天竜スギの大きな特性の一つとなっています。

比較的温暖な気候である天竜地区では積雪による根曲がりが発生し難いため、長尺で径の太い材を切り出すことができるのです。

このように、長尺で幅広の材が確保できる天竜スギは、フローリングやパネリングとして使用すると継ぎ目が少なくすっきりと張り上がるため、空間を美しく仕上げる材料として重宝されています。

さらに成長過程において丁寧に人の手で枝を落とすため、生節が多くあらわれる、というのも天竜スギの特徴の一つです。

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